半年と好きなネコ
社会人として、そして一応獣医師として働きだしてから半年が経った。
一応、無能でやる気のない自分でもなぜかクビにならずにこの仕事を続けている。
最近は唐突に新患の診察を振られることがしばしばある。
予約の時点で大した病気でもないし、少し勉強した学生でも出す薬まで想像できる程度のものではあるが、その診察を自分で行うのは、やはり診察の補助とは勝手が違う。
そもそも俺はコミュ障だ。
げんしけんでテンプレオタクの班目が服を買いに行く話がある。店員に話かけられ、キョドってゲーセンまで引き返して精神の安定を図る彼の姿には共感しすぎて泣きそうになる俺だ。
マジでしんどい、先生なんて呼ばないでほしい。
風の噂によると、共に卒業し、小動物臨床、いわゆる”動物のお医者さん”の道に進んだ連中のうちすでに10人近くが病院を辞め、違う道に進んでいるらしい。
もう本当に羨ましい。獣医師免許があるのだ。”ウリテシジョウ”とか”ダイニシンソツ”とかよくわからない単語を気にする必要もない。きっと何とかなるだろう。
俺も事情がなければそうしたい。患者もきっと3種のチーズ牛丼のようなオタクに診察されたくはないだろう。
なにせ少ない自由時間を導きの地のレベル上げに利用しているような獣医だ。
MHPに熱狂した中学生の時から何も成長していない。
二十代半ばの社会人としてそれでいいのかと思うが、中学からの友人たちも変わらずに深夜までだらだらと狩りをしている有様である。もうこれでいいか。
とにかく働き始めてから半年が経ち、モンスターハンター・アイスボーンが発売されて1ヵ月が経った。
今の俺に言えることは、診察台に乗ったネコは嫌いだし、好きなネコはスロットの押すボタンを教えてくれるネコだけだということだ。